なんちゃって洋製本の世界

こんちゃんです。先月、新宿市谷にあります「市谷の杜 本と活字館」に行ってきました。
「市谷の杜 本と活字館」は大日本印刷株式会社さまの前身、秀英舎の建物を現状保存・公開し、その中で当時の印刷設備や技術の紹介、大日本印刷の歩みなどが展示されている施設です。
以前から気になっていたスポットではあったものの、事前予約制のためこれまでなかなか行く機会がなかったのですが
どうしても行きたい企画展があったので今回会期ぎりぎり滑り込みで行ってきました


企画展≪100年くらい前の本づくり≫

明治初期に日本に流入した洋製本技術。流入当時は、まだ正しい知識を持ち指導できる人物が国内におらず、日本国内には技術者が圧倒的に足りませんでした。しかし和本に比べて1サイズあたりの情報量が格段に大きな洋装本はどんどん需要が膨らんでいきます。そんな中で日本人がどのように洋製本技術を会得し定着させていったのかを、当時の洋装本を解体しながら紹介する企画展です。


この展示では現物の隣に当時の製本方法を再現した本もあり、実際に手に取って色んな角度から見れたのが良かったです。

↑本文の内容よりもここを重点的に見てしまうの、資料修復やレプリカ製作あるあるですよね。笑

印象的だったのが、1898年に出版された「金色夜叉」。
ぱっと見は普通の丸背本ですが、解体すると糸の通し方が和本と同じ平綴じタイプ。見返しの糊付けで本文と表紙を接続させています。現代人の私が見るとはずみでポロリと取れないか心配になってしまう構造ですが、かがるよりも平綴じの方が簡単で、時間もかからないのは確かです。
洋製本ができる人が少ない中でも見た目を洋装本にすることを重視し、低コストで一般需要に応えるようと試行錯誤していたことが伺える資料で興味深かったです。

本と活字館は小さなカフェコーナーもありました。企画展メニューの名前にびっくり。

花布?折丁??膠???
しかも膠は濃薄まであります。なんでこのチョイスになったのかとても気になります…。
膠はどうしても工房の小鍋に入っている膠液が頭に浮かんでしまってちょっと頼めませんでしたので(笑)、折丁抹茶ラテを注文しました。

抹茶ラテに浮かんでいる「折丁」の二文字…こんなシチュエーションは後にも先にもないでしょう…笑
中庭の大きな青紅葉の下でラテをいただきました。

じっくり展示を見ていたらすっかり外が暗くなっていました。涼しい風が流れていてとても良い時間を過ごせました

1階の活版印刷を紹介した常設展示もかなり見ごたえがありました

本やものづくりが好きな方だけでなく、工場やガジェット類が好きな人にも刺さる展示だと感じました。
閉館時間が迫っていて、じっくり見れませんでしたのでまたリベンジしたいと思います!


日本新聞印刷さまを訪問しました
こんにちは。こんちゃんです
今回のブログはちょっと長いです。
工房レストアにとって大事なことを教えてくださった出来事でした。
最後にサプライズも…!?写真と併せてゆっくりお読みくださいね
先日、素敵なご縁をいただき、弊社の平田社長と日本新聞印刷株式会社様を訪問させて頂きました。
日本新聞印刷株式会社様は、都内芝浦で新聞紙のデザイン制作と印刷を69年手掛けていらっしゃる会社さまです。
小ロット印刷に対応できるのが強みだそうで、ホームページの制作などもされています。
紙資料修復と新聞印刷、何の関係が?と思いますよね
今回、日本新聞印刷様が手製本工房まるみず組さんに紙のサンプルを提供されたことがご縁のきっかけでした。そこから巡り巡ってまるみず先生にご紹介をいただき、大阪の工房にもお越しくださったことで、この度ご縁が繋がりました。
まるみず先生、日本新聞印刷様ありがとうございます!
社長と私が伺うと、社長さまと総務部長さまが暑い中社屋の前で待っていてくださいました

さっそく中に案内いただき、ご挨拶で名刺を…と思ったら、こんな紙を渡されました。

会社案内と名刺が新聞になってる!!!!
名刺代わりに社員様一人一人のオリジナル新聞を作られているそうで、名刺と併せてにこれを渡されるそうです!これは読んでしまいますよね。
さらに営業部長さまからは1メートル越えのビッグポスターもいただきました
裏面にはおもしろプロフィールが色々書いてありました。
これを持って営業をされるとのこと。インパクト抜群です
そして、色々と面白いお話を聞かせて頂きつつ、新聞の制作・印刷現場を見学させて頂けることに。
「まず最初に自慢の屋上を見てください!」と言われたので、小さな階段を上っていくと…

広っ!!!この見晴らし!!!!!!!
お台場フジテレビや、新幹線、モノレールもばっちり見えます。運が良ければドクターイエローも見られるのだとか。
羨ましすぎる…
社長は鉄道好きなのでめちゃくちゃ興奮しながら撮影をしていました。笑
記念撮影をした後は、3階制作部・2階の製版・1階印刷部を順に見学させて頂きました。
制作部で、紙面デザインの現場を拝見。
専用のモニターも、ソフトも、初めて見るものばかりでとても面白かったです。
新聞印刷に適した写真の見せ方のこだわりも教えてくださいました。レプリカ製作で何か生かせないかなぁ…なんて…。
制作部には新聞印刷を忠実に再現できるよう調整された巨大な高精細プリンターもありました。
それを用いながら校正を行っていくのだそうです。
カラー数が豊富で、実は新聞にも様々な色が使われていることがよく分かりました。
2階は輪転印刷機にセットする「版」を製造するフロアでした。これも専用の機械をわざわざ稼働して実演してくださいました。
(実演のあと、実は純度の高い高価なアルミ板で版が作られていると知りました…わざわざすみません
)
昔は輪転印刷機に使用する版には様々な薬品が使用されていたそうですが、現在では環境保護を考えてその薬品類を使用しない方法を採られているそうです
SDGsですね!
そして、1階の印刷部へ。1階に降りると印刷部の社員様総出で出迎えてくださいました。
これは2階で製造した輪転印刷機用の版に曲げ加工を施しているところです。
見やすいようにと、ゆ~っくりやってくださいました

樽ほどの大きさもある新聞用紙のロールたち。想像以上に大きい!

そして確認印刷の後、いよいよ本格的に輪転印刷機を動かして頂くことに…
その様子がこちら。↓
そして出てきた新聞が…

なんかこれ見覚えが…?
!!!!!!!!!????????

"株式会社工房レストア様
ようこそ日本新聞印刷へ"…!!!!!!!

なんと会社総出で、工房レストアのウェルカム新聞をサプライズで作ってくださっていたのです。
ビックリして辺りを見回すと、皆様ニコニコ……
サプライズが成功したのを喜んでおられました。
平田社長も輪転印刷機から続々と出てくるレストア新聞を見ながら、ちょっと目がウルウルしていました
笑
輪転印刷機から出てくる新聞は、どんどん色が重ねられ、美しい画質へと変わっていきました。

これは印刷部のベテラン社員の方がミリ単位の僅かな版のズレを瞬時にチェックし、即座に輪転印刷機を操作して微調整することで実現しているそうです。この間、わずか数秒。
輪転印刷機は自動でどんどん印刷をしていきますから、この調整が遅くなればなるほど印刷ロスが発生します。
このロスを最小限に抑えながら的確な調整を瞬時に手作業で行うなんて、神業としか言いようがありません
社長さまが、「彼は本当にすごいんです!」と何度も何度も仰り、一人一人の細やかな技術力が弊社を支えていますと、仰られていたのがとても印象的で、工房レストアの仕事にも非常に通ずるものがあると感じました。
将来こういったこともやっていきたい!といった、お話も伺えました。
まだ日本新聞印刷様とご縁が繋がって日が浅いにもかかわらず
ウェルカム新聞のサプライズだけでなく、他にも細やかな部分でお気遣いをいただき、皆様がとてもフレンドリーに接してくださったことが本当に嬉しかったです。
社員の皆様がとても楽しそうにされていたのが強く印象に残りました。
「少しでも喜んで欲しい」という温かな思いが感じられ、説明してくださるときも単に会社サービスを紹介するのではなく
「ここが好きなんだ!これを知ってもらいたいんだ!」という気持ちがこちらにまで伝わってきて、胸が熱くなりました。
私もこんな顔してお仕事をしたいなと、素直に感じました。
紙についてご相談に今後乗って下さるそうで、これから日本新聞印刷様とどんな活動を展開していけるのか、
一社員ながらとても楽しみにしています。他の社員も連れて、ぜひまた伺えればと思っています。
この度はありがとうございました
次はドクターイエローの写真を撮りに伺いたいと思います
(え、そっち?笑)

今回のブログはちょっと長いです。
工房レストアにとって大事なことを教えてくださった出来事でした。
最後にサプライズも…!?写真と併せてゆっくりお読みくださいね

先日、素敵なご縁をいただき、弊社の平田社長と日本新聞印刷株式会社様を訪問させて頂きました。
日本新聞印刷株式会社様は、都内芝浦で新聞紙のデザイン制作と印刷を69年手掛けていらっしゃる会社さまです。
小ロット印刷に対応できるのが強みだそうで、ホームページの制作などもされています。
紙資料修復と新聞印刷、何の関係が?と思いますよね

今回、日本新聞印刷様が手製本工房まるみず組さんに紙のサンプルを提供されたことがご縁のきっかけでした。そこから巡り巡ってまるみず先生にご紹介をいただき、大阪の工房にもお越しくださったことで、この度ご縁が繋がりました。
まるみず先生、日本新聞印刷様ありがとうございます!

社長と私が伺うと、社長さまと総務部長さまが暑い中社屋の前で待っていてくださいました


さっそく中に案内いただき、ご挨拶で名刺を…と思ったら、こんな紙を渡されました。


会社案内と名刺が新聞になってる!!!!
名刺代わりに社員様一人一人のオリジナル新聞を作られているそうで、名刺と併せてにこれを渡されるそうです!これは読んでしまいますよね。
さらに営業部長さまからは1メートル越えのビッグポスターもいただきました

これを持って営業をされるとのこと。インパクト抜群です

そして、色々と面白いお話を聞かせて頂きつつ、新聞の制作・印刷現場を見学させて頂けることに。
「まず最初に自慢の屋上を見てください!」と言われたので、小さな階段を上っていくと…

広っ!!!この見晴らし!!!!!!!
お台場フジテレビや、新幹線、モノレールもばっちり見えます。運が良ければドクターイエローも見られるのだとか。
羨ましすぎる…


記念撮影をした後は、3階制作部・2階の製版・1階印刷部を順に見学させて頂きました。
制作部で、紙面デザインの現場を拝見。
専用のモニターも、ソフトも、初めて見るものばかりでとても面白かったです。
新聞印刷に適した写真の見せ方のこだわりも教えてくださいました。レプリカ製作で何か生かせないかなぁ…なんて…。
制作部には新聞印刷を忠実に再現できるよう調整された巨大な高精細プリンターもありました。
それを用いながら校正を行っていくのだそうです。
カラー数が豊富で、実は新聞にも様々な色が使われていることがよく分かりました。
2階は輪転印刷機にセットする「版」を製造するフロアでした。これも専用の機械をわざわざ稼働して実演してくださいました。
(実演のあと、実は純度の高い高価なアルミ板で版が作られていると知りました…わざわざすみません

昔は輪転印刷機に使用する版には様々な薬品が使用されていたそうですが、現在では環境保護を考えてその薬品類を使用しない方法を採られているそうです

そして、1階の印刷部へ。1階に降りると印刷部の社員様総出で出迎えてくださいました。
これは2階で製造した輪転印刷機用の版に曲げ加工を施しているところです。
見やすいようにと、ゆ~っくりやってくださいました


樽ほどの大きさもある新聞用紙のロールたち。想像以上に大きい!

そして確認印刷の後、いよいよ本格的に輪転印刷機を動かして頂くことに…

その様子がこちら。↓
そして出てきた新聞が…

なんかこれ見覚えが…?
!!!!!!!!!????????


"株式会社工房レストア様
ようこそ日本新聞印刷へ"…!!!!!!!


なんと会社総出で、工房レストアのウェルカム新聞をサプライズで作ってくださっていたのです。
ビックリして辺りを見回すと、皆様ニコニコ……
サプライズが成功したのを喜んでおられました。
平田社長も輪転印刷機から続々と出てくるレストア新聞を見ながら、ちょっと目がウルウルしていました

輪転印刷機から出てくる新聞は、どんどん色が重ねられ、美しい画質へと変わっていきました。

これは印刷部のベテラン社員の方がミリ単位の僅かな版のズレを瞬時にチェックし、即座に輪転印刷機を操作して微調整することで実現しているそうです。この間、わずか数秒。
輪転印刷機は自動でどんどん印刷をしていきますから、この調整が遅くなればなるほど印刷ロスが発生します。
このロスを最小限に抑えながら的確な調整を瞬時に手作業で行うなんて、神業としか言いようがありません

社長さまが、「彼は本当にすごいんです!」と何度も何度も仰り、一人一人の細やかな技術力が弊社を支えていますと、仰られていたのがとても印象的で、工房レストアの仕事にも非常に通ずるものがあると感じました。
将来こういったこともやっていきたい!といった、お話も伺えました。
まだ日本新聞印刷様とご縁が繋がって日が浅いにもかかわらず
ウェルカム新聞のサプライズだけでなく、他にも細やかな部分でお気遣いをいただき、皆様がとてもフレンドリーに接してくださったことが本当に嬉しかったです。
社員の皆様がとても楽しそうにされていたのが強く印象に残りました。
「少しでも喜んで欲しい」という温かな思いが感じられ、説明してくださるときも単に会社サービスを紹介するのではなく
「ここが好きなんだ!これを知ってもらいたいんだ!」という気持ちがこちらにまで伝わってきて、胸が熱くなりました。
私もこんな顔してお仕事をしたいなと、素直に感じました。
紙についてご相談に今後乗って下さるそうで、これから日本新聞印刷様とどんな活動を展開していけるのか、
一社員ながらとても楽しみにしています。他の社員も連れて、ぜひまた伺えればと思っています。
この度はありがとうございました

次はドクターイエローの写真を撮りに伺いたいと思います

謹賀新年
ドキュメンタリー映画「明日をへぐる」を鑑賞しました。
みなさんこんにちは、こんちゃんです
今年の12月は例年に比べて少し暖かいように感じます。
油断してると一気に寒くなりそうなので気を引き締めていきたいところです
さて先日、東京田端にありますミニシアター、シネマ・チュプキ・タバタでドキュメンタリー映画「明日をへぐる」を見に行ってきました。

「明日をへぐる」は和紙の原料となる楮(こうぞ)を中心に、高知県いの町に住む人々の歴史・暮らしを記録したドキュメンタリー映画です。
実は工房レストアではこの高知県いの町産の和紙を使用していまして、いの町神谷地区の鹿敷製紙さんにお世話になっています。いつもありがとうございます
映画の中に鹿敷製紙さんが登場すると伺い、また楮栽培・加工の現場を見たことがなかったので少しでも知りたいと思い映画を見に行ってきました。
映画では、いの町の人々の暮らしの歴史・楮とのかかわり・そして今の状況が年間を通して記録されており現地の空気感を感じることができました。
収穫された楮を和紙原料にするためには、様々な工程を踏む必要があります。
いの町の楮農家の庭には、直径1メートルはある巨大なかまどと高さ2メートルもの巨大な「こしき」があり(上記画像のパンフレットに描かれてあるのが「こしき」です。)、それで蒸した楮をみんなで手分けして皮をはぎ、更にそこから外皮を取り除く「へぐり」という作業が行われます。
作業されている高齢者の皆さんはとっても元気で仲良し!和気藹々とした雰囲気にほっこりしました。
しかし、この映画には山里の暮らしでよく見られる「豊かな自然」「人々のつながり」「ほっこり」だけでは、決して済まされないものがありました。
上記の作業はこれまで、結(ゆい)と呼ばれる地域の繋がりによって保たれてきました。
しかし担い手の減少によりそのコミュニティ自体も失われつつあり、有志の方々がなんとか繋ぎとめている状況なのです。
また実にさまざまな問題が現在進行形で起こっています。
楮栽培を続けておられる農家の多くが80代、90代の高齢者であること。
サポートされている方々の年齢も決して若くはないこと。
(現地の方の言い方を借りると)楮の栽培は「機械ではもう全然できん」ため多くのコストがかかる上に「収入(的に)生活できる者がおらんなった」ため、新しく始めるのも続けるのも難しいこと。
高度経済成長に伴う大規模植林によって農家の多くが楮栽培をやめたと同時に、山の環境が大きく変わってしまったこと。
和紙そのものの需要が減少していること…
それでも、コツコツと助け合って作業に取り組んでおられる、いの町の楮栽培と和紙生産に関わる方々の姿に非常に衝撃を受けました。
これまでもメディアや書籍の中でそういった情報を見聞きはしていましたが、やはり映像が訴えかけてくるものは相当でした。
御年92歳の筒井さんが急斜面をスタスタ歩きながら、楮の蕪に生えた苔をブラシで一つ一つ掃除していく姿は忘れられないものとなりました。なんて手間のかかる栽培なのでしょう…。
私は、今まで生産者さんのことを何も知らないまま和紙を使わせてもらっていたと感じました。
この映画には先述の鹿敷製紙さんも出られており、私たちが使用している和紙が生産されていく様子も少し紹介されていました。
筒井さんが育てた楮が地元の方々によって収穫され、トラックに積まれて、鹿敷製紙さんに運ばれていくのを見たとき、あぁ筒井さんは遠い国の人ではなくて今まさに自分と繋がっている…いの町の山で生きている小さな楮の蕪が、筒井さんや多くのボランティアさん達のこまめな世話によって成長し、丁寧に収穫されて原料へ加工され、漉き元さんへ渡り、和紙となって…レストアでお預りさせて頂く資料に繋がると実感を持って迫ってきて自然と涙が出てしまいました。
今回の上演には今井友樹監督の舞台挨拶もあり上演後に少しお話させていただきました。
「若者はどのくらい結に入ってるんですか?」と伺ったところ「いやぁ全然、いないですねぇ。この地域にそもそも若い人があんまりいなくて。すれ違うトラックに若い人が乗ってたら「あ!」て思うくらい、いないんです。」と教えてくださいました。
修復によって資料を1,000年以上も先の未来に繋げていける和紙(楮)を、何の気負いもなく生活の一部として淡々と扱っていく現地のお年寄り達の姿から、私たちの生活の中で失われてしまったものを感じて貰いたいと仰っていました。
和紙原料の生産の衰退を喫緊の課題として取り組まなければならないのと同時に、地域の繋がりを保ちながら日々の暮らしをコツコツと過ごしていくこと、苦しい状況の中でも楮栽培が持続できるようサポートされている方々の姿勢から得られるものは多く、そこからまた私たちが何かお返しをしていかなければならないと思いました。
ドキュメンタリー映画「明日をへぐる」は全国各地のミニシアター・地域施設の自主上演会にて公開されています。
和紙や資料修復にかかわりのない方でも興味を持っていただける映画かと思います。是非ご覧になってみてください!
シアター・スケジュールについてはこちらからご覧ください。

東京都内ではシネマ・チュプキ・タバタにて17日(金)まで公開中です。
ユニバーサルシアターなので、聴覚視覚障がい・発達障がいの方も一緒に鑑賞できますよ
また、鹿敷製紙さんはインスタグラムで頻繁に情報発信をされています。
楮作業手伝いのスケジュール・呼びかけもされていますのでご興味ある方はチェックしてみてください!

今井監督にサインを書いていただきました
ありがとうございました!

今年の12月は例年に比べて少し暖かいように感じます。
油断してると一気に寒くなりそうなので気を引き締めていきたいところです

さて先日、東京田端にありますミニシアター、シネマ・チュプキ・タバタでドキュメンタリー映画「明日をへぐる」を見に行ってきました。

「明日をへぐる」は和紙の原料となる楮(こうぞ)を中心に、高知県いの町に住む人々の歴史・暮らしを記録したドキュメンタリー映画です。
実は工房レストアではこの高知県いの町産の和紙を使用していまして、いの町神谷地区の鹿敷製紙さんにお世話になっています。いつもありがとうございます

映画では、いの町の人々の暮らしの歴史・楮とのかかわり・そして今の状況が年間を通して記録されており現地の空気感を感じることができました。
収穫された楮を和紙原料にするためには、様々な工程を踏む必要があります。
いの町の楮農家の庭には、直径1メートルはある巨大なかまどと高さ2メートルもの巨大な「こしき」があり(上記画像のパンフレットに描かれてあるのが「こしき」です。)、それで蒸した楮をみんなで手分けして皮をはぎ、更にそこから外皮を取り除く「へぐり」という作業が行われます。
作業されている高齢者の皆さんはとっても元気で仲良し!和気藹々とした雰囲気にほっこりしました。
しかし、この映画には山里の暮らしでよく見られる「豊かな自然」「人々のつながり」「ほっこり」だけでは、決して済まされないものがありました。
上記の作業はこれまで、結(ゆい)と呼ばれる地域の繋がりによって保たれてきました。
しかし担い手の減少によりそのコミュニティ自体も失われつつあり、有志の方々がなんとか繋ぎとめている状況なのです。
また実にさまざまな問題が現在進行形で起こっています。
楮栽培を続けておられる農家の多くが80代、90代の高齢者であること。
サポートされている方々の年齢も決して若くはないこと。
(現地の方の言い方を借りると)楮の栽培は「機械ではもう全然できん」ため多くのコストがかかる上に「収入(的に)生活できる者がおらんなった」ため、新しく始めるのも続けるのも難しいこと。
高度経済成長に伴う大規模植林によって農家の多くが楮栽培をやめたと同時に、山の環境が大きく変わってしまったこと。
和紙そのものの需要が減少していること…
それでも、コツコツと助け合って作業に取り組んでおられる、いの町の楮栽培と和紙生産に関わる方々の姿に非常に衝撃を受けました。
これまでもメディアや書籍の中でそういった情報を見聞きはしていましたが、やはり映像が訴えかけてくるものは相当でした。
御年92歳の筒井さんが急斜面をスタスタ歩きながら、楮の蕪に生えた苔をブラシで一つ一つ掃除していく姿は忘れられないものとなりました。なんて手間のかかる栽培なのでしょう…。
私は、今まで生産者さんのことを何も知らないまま和紙を使わせてもらっていたと感じました。
この映画には先述の鹿敷製紙さんも出られており、私たちが使用している和紙が生産されていく様子も少し紹介されていました。
筒井さんが育てた楮が地元の方々によって収穫され、トラックに積まれて、鹿敷製紙さんに運ばれていくのを見たとき、あぁ筒井さんは遠い国の人ではなくて今まさに自分と繋がっている…いの町の山で生きている小さな楮の蕪が、筒井さんや多くのボランティアさん達のこまめな世話によって成長し、丁寧に収穫されて原料へ加工され、漉き元さんへ渡り、和紙となって…レストアでお預りさせて頂く資料に繋がると実感を持って迫ってきて自然と涙が出てしまいました。
今回の上演には今井友樹監督の舞台挨拶もあり上演後に少しお話させていただきました。
「若者はどのくらい結に入ってるんですか?」と伺ったところ「いやぁ全然、いないですねぇ。この地域にそもそも若い人があんまりいなくて。すれ違うトラックに若い人が乗ってたら「あ!」て思うくらい、いないんです。」と教えてくださいました。
修復によって資料を1,000年以上も先の未来に繋げていける和紙(楮)を、何の気負いもなく生活の一部として淡々と扱っていく現地のお年寄り達の姿から、私たちの生活の中で失われてしまったものを感じて貰いたいと仰っていました。
和紙原料の生産の衰退を喫緊の課題として取り組まなければならないのと同時に、地域の繋がりを保ちながら日々の暮らしをコツコツと過ごしていくこと、苦しい状況の中でも楮栽培が持続できるようサポートされている方々の姿勢から得られるものは多く、そこからまた私たちが何かお返しをしていかなければならないと思いました。
ドキュメンタリー映画「明日をへぐる」は全国各地のミニシアター・地域施設の自主上演会にて公開されています。
和紙や資料修復にかかわりのない方でも興味を持っていただける映画かと思います。是非ご覧になってみてください!
シアター・スケジュールについてはこちらからご覧ください。

東京都内ではシネマ・チュプキ・タバタにて17日(金)まで公開中です。
ユニバーサルシアターなので、聴覚視覚障がい・発達障がいの方も一緒に鑑賞できますよ

また、鹿敷製紙さんはインスタグラムで頻繁に情報発信をされています。
楮作業手伝いのスケジュール・呼びかけもされていますのでご興味ある方はチェックしてみてください!

今井監督にサインを書いていただきました


「川崎市市民ミュージアム被災後活動報告展」に行きました
みなさんこんにちは、久しぶりのブログ更新となってしまいました。こんちゃんです
急激に寒くなってきましたね!体調管理に気を付けていきたいところです。
さて先週末、神奈川県川崎市にあります東海道かわさき宿交流館にて開催中の「救う過去、つなぐ未来―川崎市市民ミュージアム被災後活動報告展―」に行ってきました。
ご存じのない方に少しご説明させていただきますと
2019年10月に大型台風19号が上陸し、大雨で多摩川が氾濫しました。武蔵小杉のタワーマンションの被災が全国放送されたことは記憶に新しいかと思います。その時、多摩川からあふれ出た大量の水が川崎市市民ミュージアムにも流れ込み、地下にある9つの収蔵庫を襲いました。水は2メートルにまで達し収蔵品のほとんどが水損してしまいました。その数なんと約23万点。甚大な被害です。
これまでも川崎市市民ミュージアムさんのHPやSNSで収蔵品レスキュー活動の情報は発信されておりそれは以前から見ていたのですが、今回展示で報告が見られるとのことで、工房レストアでは私だけ関東在住ということもあり見に行ってきました。

(かわさき宿交流館さん。常設展では東海道における川崎宿の当時の様子や歴史、川崎市の歴史などが紹介されています。)

会場内では収蔵品の被災状況とレスキューの流れを収蔵庫別に紹介し、被災したその日から現在に至るまでどのような形で活動が進められてきたかが網羅的に紹介されています。被災前の収蔵庫内の写真も少し紹介されており、被災時の写真と見比べることで深刻さがよりリアルに感じられました。


被災した物品や当時使用された道具も展示されていました。この活動にはこれまで約5,900名の方が参加されています。膨大な数のレスキューに対応するためには、人員だけでなく道具も相当な数が必要だったと思うとそれだけで圧倒されました。
私が個人的に印象に残ったのは考古資料のレスキュ―です。弊社は土器や埴輪などについては技術的に専門外のため、初めて知る情報が多く興味深かったです。「収蔵庫全体にグリッド(線引き)をしどのグリッド内に落ちたものか記録することで、破損しバラバラになったパーツを繋ぎ合わせる際の手がかりとする」といったノウハウは、紙製資料の修復においても活用できると思いました。保存性・可逆性の為に押さえなければならないポイントは他にも沢山ありますが、やはり修復作業において大切なことは兎にも角にも「記録」であると思いました。
また歴史資料や美術資料は、修復工程を見ることで私たちが普段行っている作業の意味を改めて認識することができました。自分の仕事を客観的に捉えられる機会になり大変勉強になりました。
また修復工程の紹介を拝見して、私たちももっと丁寧にお客様にご説明しなければならないと痛感しました…何をやるかだけではなく何の為に行うのかきちんとご説明することが、資料の理解や保管環境の改善に繋がっていくのですね。
工房レストアも過去水損資料のレスキュ―に参加したことはあるのですが(こちらで前後写真を掲載しています)実は私自身はレスキューに携わる機会がこれまでありませんでした。技術的なことは見聞きしていても肝心の現場を知らないため資料レスキューについての理解に穴が空いている状態でして、今回のほんの少しでも埋めることができて良かったです。
普段携わらせていただいている修復と地続きではありますが、資料レスキューは緊急性が高く、作業者自身も過酷な状況の中で行わざるを得ない点を考えるとやはり技術的なことは勿論、保存科学から情報共有の仕方までもっと調べて幅広く勉強しないといけないと感じました。
まだまだ知らないことばかりですが、私自身もっと積極的に資料レスキューについて勉強して将来どこかで何かの形でお役に立てられればと考えています。

(資料剥離、カビ払いに使用された道具たち)
さて、この展示会の内容ですが一部インターネット上で公開されています。
会場内でも流れていた映像ドキュメンタリーです。40分もの長編ではありますが是非ご覧いただきたいです。
また川崎市市民ミュージアムさんのホームページでは連載企画として、レスキューに携わられた方々のコメントや保存・修復工程が紹介されています。まだの方は是非ご覧になってみてください。

急激に寒くなってきましたね!体調管理に気を付けていきたいところです。
さて先週末、神奈川県川崎市にあります東海道かわさき宿交流館にて開催中の「救う過去、つなぐ未来―川崎市市民ミュージアム被災後活動報告展―」に行ってきました。
ご存じのない方に少しご説明させていただきますと
2019年10月に大型台風19号が上陸し、大雨で多摩川が氾濫しました。武蔵小杉のタワーマンションの被災が全国放送されたことは記憶に新しいかと思います。その時、多摩川からあふれ出た大量の水が川崎市市民ミュージアムにも流れ込み、地下にある9つの収蔵庫を襲いました。水は2メートルにまで達し収蔵品のほとんどが水損してしまいました。その数なんと約23万点。甚大な被害です。
これまでも川崎市市民ミュージアムさんのHPやSNSで収蔵品レスキュー活動の情報は発信されておりそれは以前から見ていたのですが、今回展示で報告が見られるとのことで、工房レストアでは私だけ関東在住ということもあり見に行ってきました。

(かわさき宿交流館さん。常設展では東海道における川崎宿の当時の様子や歴史、川崎市の歴史などが紹介されています。)

会場内では収蔵品の被災状況とレスキューの流れを収蔵庫別に紹介し、被災したその日から現在に至るまでどのような形で活動が進められてきたかが網羅的に紹介されています。被災前の収蔵庫内の写真も少し紹介されており、被災時の写真と見比べることで深刻さがよりリアルに感じられました。


被災した物品や当時使用された道具も展示されていました。この活動にはこれまで約5,900名の方が参加されています。膨大な数のレスキューに対応するためには、人員だけでなく道具も相当な数が必要だったと思うとそれだけで圧倒されました。
私が個人的に印象に残ったのは考古資料のレスキュ―です。弊社は土器や埴輪などについては技術的に専門外のため、初めて知る情報が多く興味深かったです。「収蔵庫全体にグリッド(線引き)をしどのグリッド内に落ちたものか記録することで、破損しバラバラになったパーツを繋ぎ合わせる際の手がかりとする」といったノウハウは、紙製資料の修復においても活用できると思いました。保存性・可逆性の為に押さえなければならないポイントは他にも沢山ありますが、やはり修復作業において大切なことは兎にも角にも「記録」であると思いました。
また歴史資料や美術資料は、修復工程を見ることで私たちが普段行っている作業の意味を改めて認識することができました。自分の仕事を客観的に捉えられる機会になり大変勉強になりました。
また修復工程の紹介を拝見して、私たちももっと丁寧にお客様にご説明しなければならないと痛感しました…何をやるかだけではなく何の為に行うのかきちんとご説明することが、資料の理解や保管環境の改善に繋がっていくのですね。
工房レストアも過去水損資料のレスキュ―に参加したことはあるのですが(こちらで前後写真を掲載しています)実は私自身はレスキューに携わる機会がこれまでありませんでした。技術的なことは見聞きしていても肝心の現場を知らないため資料レスキューについての理解に穴が空いている状態でして、今回のほんの少しでも埋めることができて良かったです。
普段携わらせていただいている修復と地続きではありますが、資料レスキューは緊急性が高く、作業者自身も過酷な状況の中で行わざるを得ない点を考えるとやはり技術的なことは勿論、保存科学から情報共有の仕方までもっと調べて幅広く勉強しないといけないと感じました。
まだまだ知らないことばかりですが、私自身もっと積極的に資料レスキューについて勉強して将来どこかで何かの形でお役に立てられればと考えています。

(資料剥離、カビ払いに使用された道具たち)
さて、この展示会の内容ですが一部インターネット上で公開されています。
会場内でも流れていた映像ドキュメンタリーです。40分もの長編ではありますが是非ご覧いただきたいです。
また川崎市市民ミュージアムさんのホームページでは連載企画として、レスキューに携わられた方々のコメントや保存・修復工程が紹介されています。まだの方は是非ご覧になってみてください。